遺言における『包括遺贈』と『特別遺贈』の違い
1 はじめに


「遺贈とは、被相続人が遺言によって無償で自己の財産を他人に与える処分行為(民法964条)」になります(片岡武/管野眞一編著「家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務(第4版)」日本加除出版株式会社・504頁)。
遺贈には、「包括遺贈」、「特定遺贈」、「条件付遺贈」、「負担付遺贈」、「裾分け遺贈」、「補充遺贈」、「期限付遺贈」、「後継ぎ遺贈」の8種類があるとされています。
今回は、遺贈のうち「包括遺贈」と「特定遺贈」の違いについてご紹介をさせていただきます。
2 「包括遺贈」とは
⑴ 包括遺贈には、「全部包括遺贈」と「割合的包括遺贈」があります。
包括遺贈の場合、受遺者は相続人と同一の権利義務を有することになります(民法990条)。この点が後述の「包括遺贈」と「特定遺贈」の違いが生じる理由です。
ただし、包括遺贈を受けた受遺者には、『代襲』は発生しません(民法994条1項)。
また、包括遺贈の受遺者においても遺留分の権利は有していません。
⑵ 「全部包括遺贈」について
「全部包括遺贈」は、プラスの資産、マイナスの資産(借金等)全ての相続財産を受遺者に取得させようとする遺贈です。被相続人に属した権利・義務全て受遺者に承継されます。
⑶ 「割合的包括遺贈」について
遺言者が「全財産の何分の1を遺贈する。」というように全体財産に対する割合をもって財産を遺贈するものです。
3 「特定遺贈」とは
個々に財産を特定して、遺贈をするものです。
原則として、受遺者には物・権利のみが与えられます。
4 「包括遺贈」と「特定遺贈」の違いについて
⑴ <遺産分割協議に参加する必要性の違い>
「包括遺贈」の場合:受遺者は、相続人との遺産分割協議に参加して遺産分割をする必要があります。
「特定遺贈」の場合:受遺者は、相続人との遺産分割協議に参加をする必要はないです。
⑵ <相続債務を負担するか否かの違い>
「包括遺贈」の場合:受遺者は、一定割合(全部・一部)の相続債務を負担することになります。
「特定遺贈」の場合:受遺者は、遺言書で指定された場合に限り相続債務を負担することになります。それ以外は、相続債務を負担しません。
⑶ <放棄の手続きについての違い>
「包括遺贈」の場合:受遺者は、相続の開始があったことを知った時から3ヶ月以内に家庭裁判所に放棄の申述が必要となります。法定相続人と同じとされるからです。
「特定遺贈」の場合:受遺者は、遺贈義務者(相続人等)に対して放棄の意思表示をすることで終わります。これは、被相続人の死亡後に行なうことになりますが、期限はありません。
⑷ <農地の承継に農地法3条の許可が必要かどうかの違い>
「包括遺贈」の場合:受遺者には、農地法3条の許可は不要です。
「特定遺贈」の場合:受遺者には、農地法3条の許可が必要となります。
5 さいごに
『遺言』につきましては、遺言の内容の精査など事前の準備が必要となることも多いです。
「相続人に財産を渡したいのか」、「相続人以外に財産を渡したいのか」、そのため、「遺言の内容をどうするか」、「後の紛争をどうやって防止するのか」という点においても弁護士に事前にご相談をされることをおすすめいたします。